ラスト○年⁉️の風岡たけのこ園
今、静岡県富士宮市の『【風岡たけのこ園】さんからの筍』の到着を待っています。
上質な筍と言えば、京都が有名です。関東で言うなら茨城県の水戸の筍が有名です。美味しい筍の育つ要素は、間違いなく『土』であると思っています。良い土と言っても、筍に合う土質でなければ、良い筍にはなかなかなりません。
そして、合う土質であってもその土に充分な栄養、手入れの行き届いた竹林がなければ、良い筍には育て上げられません。
そう、筍は『そこいら辺にある竹林に春になると出てくるから、掘る』って言うのでは、ボクの思う『食べてもらう人にとても喜んでもらう筍』にはならないんです。『ご近所さんにお裾分け』ぐらいならとても喜んでもらえるのでしょう。
では、何故に【風岡たけのこ園の筍】を階段ノ上ノ食堂が選ぶのか。
【風岡たけのこ園】は、焼きそばで有名な富士宮市にあります。富士宮と言っても少し山の方。昔は芝川町という町で合併に伴い富士宮市となりました。富士川等の河川が流れ富士山もすぐそこに見える山梨県との境に位置します。
その芝川は筍がよく採れるようですが、風岡たけのこ園のある【内房】という地区は、他の地区とは少し土質が違い、赤土になるそうです。その土質の違いが他の地域とは大きく違い、筍というと、下茹でをするのですが、筍にはエグみを取るために糠と一緒に茹で、その後にまた糠臭さを取るためにもう一度水で茹でるわけです。しかし、茹でた水を捨てて、味のない水で茹で、その後に出汁の味を含ませて料理する、というと、本当の『筍の味』は至極薄まってしまうわけです。ですが、
【風岡たけのこ園】の竹林で獲れるタケノコはエグみがとても少なく、殆どありません。なので、水で茹で、そのままそのまま茹で汁に浸けて保存したり、その茹で汁を料理に使ったりすることができるんです。そのまま茹で汁を飲んでみても、上質なコーン茶のような甘い味がします。
初めて風岡さんの筍を茹でた時、『糠湯がき』が必要ないということに半信半疑でした。テレビでは、京都の竹林で“採れたて”のものはエグみがなく、時間が経つにつれエグみが出てくる、というものだったのですから。しかし、タケノコを茹でていると、どこからともなく甘い香りが。今まで嗅いだことのない甘い香りでした。そう、筍の茹でている鍋から漂ってくるのです。もう、その時点でノックアウトです。食べてみても、上質なトウモロコシのような甘さ。それを体験してから、もう15年近くの『虜』 です。
全国すべての筍を食べたわけではありませんので、私が『日本一』とは断言できません。ですが、市場に出ている筍の京都の最高級という物も使ったり食べたり、高いレストランで様々な上質といわれる筍を食べたことありますが、【風岡さんの筍】以上の衝撃を感じたことはありませんし、他の人も同じく、そう感じると思っています。しかも、その土質によって獲れる筍の味に満足せずに年々美味しくなっている【その筍】。毎年、春はまだかまだか、筍はまだかまだか、と待っていますし、シーズンが始まる前には、しばしば竹林を案内してもらっていました。
というのが、去年までの風岡たけのこ園と階段ノ上ノ食堂の物語でした。
そして、小説のように思ってもみないことは、思ってもみないタイミングでやってくるのですね。
なんと、風岡さんが『たけのこ農家を辞める』と。
ボクは自分勝手なので、『えっ?辞めちゃったあとは、たけのこはどこのを扱えば良いんだろ?』
なんて思ってしまって、その後にふと考えました。風岡さんのことだから『たけのこに飽きちゃってね』なーんてことはないから、ちゃんとした理由があるんだろうな、と。
今年のシーズンはじめに、その真偽を確かめるべく風岡たけのこ園に訪問しました。
ぱっと見、至って普通なタケノコ王こと風岡さん。今年の筍、畑の様子を伺うと、あっけらかんと『タケノコもあと3年で辞めちゃうからね』と言うのです。タケノコ業を辞めてタレント業に専念する 訳ではありませーん。近年、風岡さんは足が良くなく、足首の軟骨がなく、強い動きでは痛みがあるそうです。4年前には入院して手術をしているくらいで、完治は難しいそうです。そうです、人生は残りはまだまだ長いです。タケノコも大事ですが、普通の暮らしはもっと大事です。何につけても身体が資本ですから。しかし、その身体も、今まで筍に尽くしてきた結果なのです。というのも、風岡たけのこ園の竹林は山の斜面にある為になかなか作業が大変なのです。風岡さんは、春の収穫の為に、収穫の季節以外もほぼ毎日山に入って作業をしています。収穫が終われば伸びてきた竹の子の選別と伐採(本数を少なくすることで土に日があたり、さらにそれぞれの竹に充分な栄養がいくため)、独自の配合肥料の散布、猪が侵入していないか確認や柵の設置や修繕。等々。
わたくしが知る限りでこれくらいですが、実際にはこれの何倍もの作業があるのでしょう。それを、びっくりするくらいの傾斜の斜面で行うのです。かつてはプロのトライアスロン選手だった風岡さんならではの成せる業なのですが、それでも、身体はもたなかった。ということです。良いですか?それで、筍の収穫は春の1ヶ月~1ヶ月半くらいなのですよ。
風岡たけのこ園は全国でも他に例のない専業の筍農家です。自前の直売所で地元の野菜を売ることをしていますが、一年の収入の殆どは『筍』です。その筍が高いかといったら、そりゃ安売りしているスーパーなんかと比べたら高いですよ。ですが、最高級の京都の筍と比べたら、びっくりするくらい安いのです。かといって、味も安い味なのかって言ったら、そんなことない、って私は思います。世の中の値段は、【需要】と【供給】のバランスによって決定しています。その【需要】には『知名度』という要素もかなりの割合で占められている、と思います。一般の方がテレビで見て知っている、ということよりも、(より人気のある)料理人がより求める食材が値段が高くついても売れるのです。富士宮の片隅の直売所でキロ何万もする筍は売れないんですよ。近年は宅急便を使って個人の方、お店も様々なところから直接購入する機会が増えました。ですが、それが他の高級筍と肩を並べたり、越えるには至っていないのです。
それを買う我々からすると、安い方が良いでしょう。ですが、あなたがそれを販売する立場ならどうでしょう?キツイ仕事を雨の日も風の日も行きの日も獣道を通って、足にケガを抱えたまま存続するのも大変なのに続けますか?続けてくださいって、簡単に言えますか?
辞めると話を聞いた後も、話をしていると筍に対する【情熱】は全く衰えてません。風岡さんが次に何をするかは、まだ全然決めてはいないようです。『何をしましょうかね~?』と言ってはいますが、『可能ならば続けたいんですがね』という雰囲気が漂っているんです。でも、難しい訳です。そして、日本中の農家の悩み、『後継者』。
風岡さんは、私の知り合う前からその問題に向き合いました、かなり特徴的な取り組み方ですけど。それは、農業ってやっぱり『稼げない』イメージが強くそれが若い世代がなりたがらない理由なんだと思います。都会の暮らしや仕事と比べても『華やかさ』もありませんし。なので、敢えてフェラーリのような高級車に乗り、『農家でもこれだけ稼げんだぜ』、というのを見せたり、テレビ番組に出演し、田舎の生活の楽しさを伝えてきました。でも、個人の努力でまだまだその魅力を多くの人(特に若者)に伝えられておらずか、魅力を感じていても『踏み出す』までは至っていないのです。ですが、その敢えてやっていた行動が、『あの人は目立ちたがり屋だ』とか『テレビでガッポリ稼いでいるんでしょ』とか言われる始末です。テレビの出演謝礼の金額を聞きましたが、びっくりするくらいもらっていません。それであんなに出てるんですか??ってくらい。そう、自身の筍の宣伝の為もあるでしょう。なんたって日本一を目指しているんですから、まず一人でも多くの人に食べてもらわないことには、始まりません。でも、それ以上に筍栽培、農業、地方暮らしの魅力を伝えることに意義をおいているんですよ、実は。農家を辞めることがニュースになる農家さんていますか?『あーぁ、そりゃ残念だね~』とだけ言うことは簡単ですが、それではこれまで風岡さんが広めてきたことの意味がありません。そこには、実は日本の農業の縮図があるんではないでしょうか。中には、世の中に知られていないのにガッポリ稼いでいる人もいるのかも知れません。でも、想いが強ければ強いほど、続けるのが大変になってくるんです。これ、飲食店も同じ気がします。うちら、不器用ですから。
どの仕事も大変なのだと思います。農家もそうですし、飲食店もそうですし、貴方がしているその仕事も大変だと思います。良い物が安く買えたら、そりゃ嬉しいです。でも、安く売る為には、大変な努力があったりするんです。安さを追い求められると、物を作る人は、【作り方を変える】【原価を抑える】【利益を少なくする(自分の給料を少なくする)】となっていきます。それでも、あなただったら続けていきますか?続けていってる人は、それを食べてくれたり、使ってくれたりして、喜んでもらいたくて続けるのです。でも、限界がくるんです。よく『ワガママの言える店』『聞いてくれる店』という言葉に耳にします。そのワガママの代償を相手に払っていますか?『あのお店は物が良いけど高い』とかも耳にします。貴方が欲しいのは、『安い』ですか?それとも『良いもの』ですか?
物を買ってくれないことには、商売は成り立たないんです。その為に、『どうにか』と、身を削っているんです。
ですから、消費者の立場の方がやや強いんじゃないかな、と思うんです。『もっとうまくやりなよ』と思う方も多いと思います。みんながみんな、商売の能力があるわけではないんですけど、【美味しいタケノコを、野菜を作る情熱と技術がある】【料理を作る情熱がある】【良い物を作る技術はある】人ってたくさんいると思うんです。『安い物を買えること』が目利きではなくて、『物を見て、使って、食べて、感じて、それに対して、相応な対価を払えること』が【目利き】なんではないでしょうか。
繰り返しになりますが、世の中の値段の決まりは、『【需要】と【供給】のバランス』なので、【品質】=【値段】ではないんですね。そして、ボクが全然興味がないからかも知れませんけど、『ネットで○○に課金した』とかよりも、『食べること』『農業』『漁業』『林業』とか【第一次産業】さらには、その先の【第二次産業】がもう少し評価される、お金が回るようになっても良いんじゃないか、と思うんです。皆さん、知らず知らずに満たされていたり、心配なかったり、しているので、その尊さを気付かずにいたり、甘えていたりしていませんか?少しでも安く買うこともあなたにとって大切かも知れませんが、ずっといつまでも、『美味しい野菜・肉・魚等を食べ続けられる』ということが大切だと思うのですが、どうでしょうか?その為にには、価格の高騰は、しょうがないことは、特にここ最近は仕方のないこと、だという事を理解しなくてはならないのです。
そして、風岡さんをはじめ、当店で送っていただいている野菜や魚、肉や米、その他の生産物、どれもどこに出しても胸を晴れるくらいの高品質なものですが、そんなに高くないんです。そりゃ、そこらへんのスーパーなんかで売っているものに比べたら、高いですよ。そりゃ、質が全然違いますから。でも、品質を見ると安く感じられるんです。本当に有難い限りです。うちのお店が使うことで、本当に想いのある方々が少しでも『潤う』ならば、できる限り使わせてもらいたいと思います。
そして、少しでも多くの方が、少しでもそういった視点を持っていただけたら、第一次産業・第二次産業の次世代を担う【なり手】が今よりも増え、本当の意味での【豊かな生活】【豊かな国】ができるのではないか、と思う、『風岡さんの引退宣言』からそんなことを考えてみました。そして、貴方にも、少しその事を考えてみてもらいたいと思います。
本当に豊かになった時に、貴方が『美味しい』って言った時にみんなが手放しに嬉しく思えるんじゃないかと思います。
あと、数シーズン、是非とも、風岡たけのこ園の『筍』を味わってください。